今日は算数オリンピック関連の合格発表日。
「合格!」
と報告するママのツイートで𝕏は賑わっている一方で、カズオのママの顔面は曇っていた。
遡ること6月◯日父の日の日曜日、カズオはジュニア算数オリンピックに向かった。
正確に言うと、ママが勝手に申し込み受験させられたという表現が正しいだろう。
パパが地方国立大学理学部出身のためか
「カズオは算数が得意なはずよ!」
と算数コンプレックスが強い私立大文系卒のママは謎の自信に満ち溢れていて、カズオが幼少期の頃から、ことあるごとに算数のイベントに参加させていた。
もちろん小学生低学年を対象とした「キッズBEE大会」にも出場させられたが、算数専門塾の重課金のおかげで何とか予選は突破できてはいたものの、ファイナルでは散々な結果であった。
そもそもカズオは算数はキライではないけれども、友達と遊んだりサッカーやゲームをしたりするのを我慢できるほど
「好き」
ではなかった。
だが、ママが
「カズオは算数が1番好きよね?」
っていう質問に
「うん」
と答えないとあからさまに顔が曇るので、家庭の平和のために
「算数が好き」
という父譲りのJTC気質な少年になっていたのだ。
昔のママはこんな感じじゃなかった—-
カズオは年少まで茨城県で過ごした幼稚園時代の優しかったママを思い出していた。
毎日のように友達とのサッカー遊びを温かい目で見守ってくれていたママ…
ところがJTC勤めのパパが転勤でTOKYOに引越した時から様子は変わっていったのだ。
言わずもがな、TOKYOの教育熱に侵されてしまったのである。
「小4では、もはや早期英語は間に合わない」
と夜な夜な悔やむママ。
ならば得意の算数を伸ばせばいいという短絡的な考えでサッカーな毎日が算数の日々へと激変したのである。
課金もエスカレート。
JTCパパのワンマン稼ぎでは追いつかず、不本意ながらリザードン型ワーママへと超進化を遂げたのであった。
もはや誰も止めることがないTOKYO教育熱という病に侵されたママ…。
情報収集と称し、今まで見向きもしなかったTwitterに隙あらば入り浸る毎日。
特に「専業主婦VSワーママ論争」はリザードン型ワーママへと変貌を遂げたママには刺さったらしく
「専業主婦だからカブトムシ取りやザリガニ釣りだけじゃなく算数を見てあげられるゆとりがある」
という専業主婦のゆるふわポストに対して
「私はフルタイムワーママだけど算数オリンピック目指してますが?」
などとクソリプを飛ばすようになっていたのである。
また
「算数数学も早期英語でやればいいじゃない」
と早期英語至上主義のインタースクール経営者()のポストにも噛みつき
「どうせダブルリミテッドのくせに。あなたの日本語長文は英語のやりすぎトレードオフで意味不明」
と早期英語界隈にもクソリプを飛ばす無双状態になっていた。
算数好きになってほしいというママの願いを込められ「数男」と名付けられたカズオは、算数をさせられればさせられるほどに
「自分より遥かに優秀で算数好きな子供たち」
を目にするようになり
「自分に算数は向いていない」
と自覚するようになるのだが逃げ場はない。
「挑戦は良いことよ」
と毎年算数オリンピックに送り込まれるのである。
6月某日算数オリンピックの予選は、父の日に開催された。
その日はJTCパパが接待ゴルフもなく休みと聞いていただけに、久しぶりに一緒にサッカーをしたかった。
しかし、ママは
「算数オリンピックで勝ち残ることが最大の父の日のプレゼントよ」
と佐藤ママと双剣を成すほどのびっくり思想を押し付けてくるのである。
「いやだ!」
なんて言えるはずがない。
家庭の平和のため、僕は向かわなくてはいけない…パパ譲りのJTC気質はしっかりと遺伝していたが、肝心の算数の能力はそれほど遺伝はしていなかった(平均への回帰)。
因みに算数オリンピックには否定的な「佐藤ママ信者」のママであったが、Twitterの沼にハマり、オリンピックといえば夏季と冬季しか知らなかったのに、算数オリンピックの存在を知ることになったのだ。
キッズBEEでは何とか予選突破はできていたもののジュニアにもなると身が入らないことと相まって出来はイマイチだった。
しかしお迎えに来るママには決して出来なかったとは言えない。
死んだ目で必死に
「まぁまぁ出来た」
という言葉を振り絞るのであった。
結果が出るまで寝つきが悪い日が続く。
サッカーがしたい、その思いも虚しく、行けるはずのないファイナルの勉強をさせられるのである。
そして、合格発表の本日を迎えたのである。
終
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